インターネット広告市場が活況になる中で様々な広告手法やメディアが生み出され、企業(広告主)にとっては顧客の流入経路が多様化・複雑化するようになりました。
しかし、そうなると実際にどの広告が効果的だったのかわかりにくくなり、余計な広告に予算を割いてしまうリスクがありました。
有効な広告の組合せによりリスクを軽減し、コストの削減と最適なコスト配分を可能にし、広告効果を最大化するのに有効な手段として生み出されたのが、アトリビューション分析です。
今回は、今後ますます重要になるであろうアトリビューション分析について、その意味から、注目される背景、具体的な分析手法までご紹介します。
アトリビューション分析について
アトリビューション分析とは
アトリビューション分析とは上の図のように、直接効果につながった流入経路(直接コンバージョン)だけでなく、コンバージョンに至るまでの接触履歴や経路(間接コンバージョン)も含めてコンバージョンに対する貢献度を測り、広告を正当に評価する分析手法です。
冒頭に述べたように、広告予算の最適配分や広告効果の最大化を可能とし、新しいマーケティング手法の検討にも役立ちます。
アトリビューション分析が重要となっている背景
アトリビューション分析が重要となっている背景には、いくつか具体的な事象が存在します。実際のアトリビューション分析の手法はそれぞれの事象に対する具体的な打ち手を講じたものも多くなっています。具体的な手法の前に、アトリビューション分析が求められる背景について理解をしておきましょう。
ラストクリックの過大評価
アトリビューション分析が発達する前は、広告効果の評価はコンバージョンに至る直前のみ(ラストクリック)を評価していました。(※ラストクリック広告は、顕在ユーザーの刈り取りを得意とするオーガニック検索やリスティング広告が多い。)
しかし、ネット広告やSNS、CRMなどの発展により、ユーザーの流入経路が複雑化している現代においては、実際に消費者のコンバージョンがどのマーケティング施策(タッチポイント)によって影響を受けたのかわかりにくくなっています。例えば、直接CVには至らなかったが、SNS広告で認知を高め、潜在的な購買欲求に影響を与えている事もあります。
そうすると例えば、初回に出稿したFacebook広告でユーザーがサービスや商品を認知し、その認知がコンバージョンに影響を与えている状況で、ラストクリック広告に対する評価のみを続け、リスティング広告に予算を割き、Facebook広告への予算比率を減らしてしまったが故、効果が上がらないという事態も起こりえます。
SEOやリスティング広告の限界
アフィリエイトブログが全盛期だったころは、素人レベルでも簡単にSEO対策ができるほど、顧客獲得は簡単にできました。しかし、近年情報収集の手段が「検索」だけではなくなってきていることから、検索数が伸び悩みや、クリック単価の高騰などからSEO対策やリスティング広告だけでは効果を発揮しにくくなってきています。
そうしたことから一つの手法に特化した縦割りキャンペーンではなく、検索やディスプレイ広告、SNSなど全体を俯瞰的に捉えたメディアプラン、マーケティング・コミュニケーション戦略が求められています。
ディスプレイ広告の発展
近年、DSPやGDN、YDNの発達に伴って、以前に増して詳細なターケティングによるディスプレイ広告の配信が可能となっており、前述の自然検索数の鈍化や、SEOやリスティング広告の限界という影響もあって、潜在層にリーチ出来るディスプレイ広告への期待は高まりが市場が大きく成長しています。
それに伴って、アトリビューション分析の重要性も高まっている訳ですが、その理由として、ディスプレイ広告の効果測定方法が挙げられます。というのも、ディスプレイ広告は潜在層への認知向上に強みを持っており、ディスプレイ広告を見たユーザーがその商品名を検索し、リスティング広告から流入することもしばしば起こりうるからです。
つまり、ディスプレイ広告の効果検証には、直接コンバージョンだけでなく、間接コンバージョンも含めて評価をする必要があり、まさにアトリビューション分析が求められる背景となっています。
具体的なアトリビューション分析手法について
アトリビューションモデル
アトリビューション分析には広告の貢献度検証する際に、どのタッチポイントを重視するかというルール決めが必要で、それを表したモデルがいくつか存在し、今回は中でも有名な5つをご紹介します。
1.終点モデル
終点モデルでは、最後のタッチポイントのみに、貢献度を割り振ります。期間限定キャンペーンなど、期間が非常に限られた広告や売り要素の強い広告の検証に向いています。
2.起点モデル
起点モデルでは、最初のタッチポイントのみに、貢献度を割り振ります。つまり、商品の認知を目的とした広告の検証に向いています。
3.線形モデル
線形モデルでは、全てのタッチポイントに、均等に貢献度を割り振ります。最も初歩的なモデルです。アトリビューション分析を始めた際には、まず第一に試してみるべきモデルです。
4.減衰モデル
減衰モデルでは、コンバージョンした時間から遡って、順番に貢献度を割り振ります。検証期間が1週間以内など短い場合に用いられるモデルです。
5.接点ベースモデル
接点ベースモデルでは、最初と最後のタッチポイントに、多くの貢献度を割り振り、残りのタッチポイントに割り振ります。商品を認知させた最初のタッチポイントと、CVを決定させた最後のタッチポイントを評価するわけですが、差し加減が難しいモデルです。
アトリビューション分析手法
成果配分モデル
上記のアトリビューションモデルもこの成果配分モデルの考え方の基本です。Google Analyticsの基本的な機能に関しては、この成果配分モデルを元に作られています。
また、他のサービスとしては、アタラ合同会社とFringe81株式会社がアトリビューション分析で連携し、ビュースルーコンバージョンを含めた分析を可能にしています。
ビュースルーコンバージョンとは、表示されたバナー広告をクリックしなかったユーザーが、30日以内に別のルートでコンバージョンした数です。
このサービスは、バナー広告のクリック率の低下に伴い、バナー広告がユーザーに与えている間接的な影響(ビュースルーコンバージョン)の可視化を求めるニーズに応えるものとなっています。
参照): ValuePress!「アタラ、Fringe81が、ビュースルーコンバージョンを対象にしたアトリビューション分析で提携」
ベイジアンネットワークモデル
ベイジアンネットワークモデルとは、株式会社ALBERTが行う、数理モデルと呼ばれるアトリビューション分析モデルです。
ALBERTは、広告における各メディアの因果関係と貢献度をベイジアンネットワークによる因果推論モデルで把握するアトリビューション分析サービスをスタートした。
ベイジアンネットワークとは、コンバージョンに至った原因がどのキャンペーンのどのメディアにあるのかという因果関係と、それぞれがどれだけコンバージョンに影響を与えたかという影響度を、グラフ構造および確率分布から高精度に推論するモデル。
仮説ありきの従来型の成果配分モデルではなく、ベイジアンネットワークを採用することで、より効果の高い広告予算配分を可能としています。
また、これによりデジタルマーケティング領域だけではなく、4大マス広告やリアル店舗での販売促進にも適用できるモデルを開発しており、統合型のアトリビューション分析を可能としています。
参照): MarkeZine「ALBERT、ベイジアンネットワークを用いたアトリビューション分析サービス開始」
マルコフ連鎖モデル
マルコフ連鎖モデルとは、株式会社アイ・エム・ジェイが行う、数理モデルと呼ばれるアトリビューション分析モデルです。
全ユーザーのメディア間の遷移とサイト流入を分析対象に、あるメディアから別メディアへの遷移確率を計算。その確率の大きさ(重み)に従い、各メディアのサイト流入およびコンバージョンの貢献度を算出します。
実際のユーザーの遷移を確率的に表すため、ユーザーの動きが事前のプランニング通りだったかを確認・検証することができます。メディア投資額だけでなく、出稿タイミングも検証し、次期メディア・プランニングに役立てられます。
参照): 株式会社アイ・エム・ジェイ「「アトリビューション分析サービス」開始」
ポルツマンウェイトモデル
ポルツマンウェイトモデルとは、Fringe81株式会社が行う、統合物理モデルと呼ばれるアトリビューション分析モデルです。
オンライン上でユーザーがとる行動が、原子や分子のように確率的に動いている粒子の状態と似通った点が多く、統計物理学の理論で記述可能であることに着目しました。数回にわたるプロトタイプ作成と検討の結果、自然現象をシミュレーションできるボルツマンウェイトを導入することで、「検索連動広告」と「ディスプレイ広告」を縦断して分析/グラフ化した予算配分シミュレーション手法を確立しました。
現状のデジタルマーケティングの現場では、広告媒体ごとにインプレッション(imp)、クリック(CL)、クリックスルーレート(CTR)、コンバージョン(CV)のような指標を少しでもその数字が良くなるよう調整していましたが、実際広告(媒体)間の効果は、サッカーで例えるとパス⇒ドリブル⇒シュートのように連携していながら、シュートのアシストにあたるバナー等は評価されていませんでした。こうした関連性を考慮して、媒体毎に評価するのでは無く、「ゴールが決まりやすい連携をしている媒体、コンテンツ、広告の組み合わせ」を分析し判断できるようになるのが、ボルツマンウェイト分析です。
参照): Fringe81株式会社「Fringe81、統計物理学によるオンライン広告予算の最適配分サービスを開始」
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はアトリビューション分析についてご紹介しました。アドテクノロジー等技術の進歩によって、消費者一人一人に最適化されたマーケティングがますます盛んになる今。今後も新たなのアトリビューション分析のモデルが生み出されるかもしれません。実際に利用する側としては、それぞれの分析モデルの概念を理解し、現場に求められる最適な解を提供できるモデルを採用できることが求められています。