近年、定期収益型のビジネスが著しい成長を見せています。クラウドサービスを提供しているSaaSのような新興産業が特にこのモデルを採用しています。
ビジネスモデルが「モノを買う」から「利用期間に対して費用を払う」にシフトチェンジし、営業スタイルも「売り切り型」から「月額課金型」に変わってきています。
このようなビジネスモデル下では、顧客のLTVを最大化させることが前提であり、CRM(既存顧客のマネジメント)が非常に重要です。
そして、CRMの多くに活用される手段としてマーケティングオートメーションツール(MAツール)が挙げられます。
このMAとよく混同されがちなのが、今回のテーマ『ABM』です。ABMは、BtoBマーケティングには欠かせない重要な考え方なので、MAと一緒に理解しておきましょう。
ABMについて理解しよう
ABMとは?
ABMとは、アカウントベースドマーケティング(Account Based Marketing)の略で、
アカウントとは顧客となる企業全体を指し、顧客企業に対して、一担当者や一部署ではなく、企業全体をターゲットとして捉え、自社の複数の部門が連携して、適切なタイミングで適切な商談を行い、成約を目指すマーケティング手法や考え方です。
一企業に対しそれだけのリソースと手間をかけるわけですから、基本的には大型受注であることが多いのが特徴です。
ABMって何が新しいの?
実は日本企業は、元々このABMの考え方にほど近い営業を行っています。
具体的には、まず担当者に会い、会社組織を理解し、誰が決裁者で、誰がキーパーソンで、その人に会うためには何をし、その人の決裁を得るには担当者にどのような情報を渡せばいいのか、あるいは自社の役職を連れて行くことで商談化できるのか、こんなことを日本企業の営業はごくごく当たり前のように考えています。
では、何が新しいのでしょうか。
それは、この日本式の営業スタイルのベースの上で、MAツールやSFA、CRM、DMP、BIといった様々なIT技術・ツールやデータを駆使して、営業(人間)一人に依存する俗人的な方法ではなく、より組織的で戦略的な営業・マーケティング手法であるということです。
また、通常マーケティング部門がMAツールを活用している場合、リードジェネレーションとリードナーチャリングを行った上で顧客化し、営業にパスアップをしますが、ABMはマーケティングと営業が同じ戦略の上で、事前に合意の取れた顧客をターゲットにするため、部門間の連携がとても重要になります。
具体的に何をするのか?ABMの手順
通常の法人営業と同じ流れではありますが、よく考えなければならないのは、どのタッチポイントで、どんなツールを使って、最適な情報提供・最適な定期接点を取れるかということです。
①ターゲットとなる企業(アカウント)を決定
企業として戦略的にアプローチしたい企業を具体的に決定します。
その際、現在の売上の多くを構成する企業の特徴(会社規模や業界、エリアなど)に該当し、まだ顧客化できていない企業をリストアップします。パレートの法則を用いて選定するのも良いとされています。
※パレートの法則:ビジネス上、全売上の8割は全顧客の2割が生み出しており、顧客全体ではなく2割の顧客に絞ったサービスを行う方が効率よく売上を伸ばすことができる。
②タッチポイントの有無を確認
ターゲットとなる企業とのタッチポイントの有無を確認します。タッチポイントがあれば、もちろん直接アプローチし、ない場合にはタッチポイントを作ります。具体的には、展示会での名刺獲得や、テレアポ、問合せ、DMなどです。最近では、インターネット広告を使った手法もメジャーになりつつあります。
③ターゲット企業のキーパーソンの特定
ターゲットとなる企業を決めたら、その企業の決裁者やキーパーソンを特定します。その人物との接点がない場合は、営業部で調査したり、社外の専門業者から情報を購入したりします。
④パーソナライズされたコンテンツとメッセージの検討
決裁者やキーパーソンにとって価値のある情報(課題やニーズを解決するコンテンツやメッセージ)はどのようなものか検討します。
⑤最適チャネルの決定とキャンペーンを実施
ターゲットとなる企業の決裁者やキーパーソンがよく見るチャネル(WebやEメール、モバイル、紙媒体など)でアプローチします。MAを使ったメルマガ配信やテレマーケティング、Webや、Google、Facebookなどの広告のパーソナライズ機能を使った施策を実行します。この時、キャンペーンがチャネル間で連動し、一貫したメッセージが伝わるようにします。
インターネット広告を活用したABM
インターネット広告を活用することでタッチポイントを獲得することや、アプローチすることが可能です。例えば、自社サイトにアクセスしてきたユーザーが自社のターゲットとするユーザーかどうか、IPアドレスと、DMPを連携させることである程度わかります。
もしターゲット企業のユーザーであれば、ユーザーが最初に目にするウェルカムスクリーンにターゲット企業名を載せたアクセスを歓迎するメッセージやLPを表示したり、その企業用の特別コンテンツに誘導するバナーを表示したりすることが可能です。
またターゲット企業へのみバナー広告を配信したり、Facebook広告などによって認知を拡大したりすることも可能です。
ABMがもたらすメリット
効率のよいマーケティング
ABMは注力顧客に的を絞ったマーケティングであるため、無駄な自社リソースを削減でき、ITSMAが2014年に実施した調査でも、BtoBマーケティング戦略のなかで、最も高い投資対効果(ROI)を生んでいることがわかっています。
参照): ITSMA「ITSMA Online Survey: Account Based Marketing and ROI: Building the Case for Investment」
社内連携が取りやすい
前述したように、社内の各部門が同じ戦略の元、同一の企業に対しマーケティングを行うので、連携がスムーズになります。
リードの追跡と測定がしやすい
ABMはターゲットとなる顧客を絞り込んでいるため、キャンペーンの効果を検証する際に精度の高い結果を得られやすく、その後もより質の高い(精度の高い)マーケティングが可能になります。
ABMの導入に向いている会社とパターン
ABMは、全ての会社やパターンに万能な施策ではありません。向いている会社やパターンには、下記のような特徴があります。
【向いている会社】
・BtoBビジネスで、商材の単価が高く、検討期間または購買関係が長い
・ターゲット企業の属性や財務面で制約が多い
【向いているパターン】
・特定の地域を攻める場合
・自社ブランディングのために有名企業の実績を作りたい場合
まとめ
いかがでしたでしょうか。元々日本に馴染みがある営業スタイルをベースにIT技術を駆使したABMは、顧客を絞ることでリソースを集中させ、戦略的で組織的、そして効率的なマーケティング手法です。
シャノンやMarketo、salesforceなどABMを簡単に始められるツールも増えているので、ABMが合っていそうな企業、状況においては一度ABMを試してみてはいかがでしょうか。